2017年 02月 07日
娘の結婚式で |
木村カエラはあの「バタフライ」って曲を自分の結婚式で歌ったんかな、とか娘に言って笑ったりしていた自分がこんなに早くに花嫁の父になるとは予想していなかった。
結婚はそのうちするだろう、そして中華料理屋でも借り切って友人知人を招いた宴くらいはやるだろう、とは思っていた。ホテルの高い階にある式場でやることにした、と聴いたのが昨年秋ぐらいか。そして先週末の土曜日が結婚式だった。
式はホテルのウエディングチャペルで基督式で行われ、私は燕尾のスーツを着、娘の手を取って新郎のところまでエスコートしたのだが、裾の長いドレスと高いヒールのため足元のおぼつかない娘の歩調に合わせてゆっくり歩くとき、彼女が2歳か3歳の頃のような感じだった。
形式的なものだからあまり普通の披露宴も必要無い気がしていたが、式の後の披露の宴は私の想像よりもずっと心動かされるものだった。自分の子供が皆に祝福されている。今一身に受けきれないくらいの祝福を貰っているこの子は普段人に好かれていたんだなと強く感じた。友人が制作してくれたとても手の込んだお祝いの映像で娘が泣きだす時、私も涙が出た。
子供はその可愛さのため、三歳までに親の恩を全部返してしまうというが、私には返してもらう恩など何もない。子育てに思い出す苦労など何もなくただ自分が勝手に盛り上がって楽しんでいるだけの駄目な親だった。だからこれから少しでも子供の役に立たなくてはならないし、出来ることなら苦労や困難を代わってやりたいくらいだが、ただ、何も困難のない人生が人間にとって幸せかと言えばそうとも言えず、苦によってしか開かれない世界もあると思う。水木しげるの漫画で読んだのだが、チベットのミラレパという偉い密教修行者は若い頃、自分の家族に仇をなした親戚を呪術で殺し、集落を破壊してしまったが、その後自分の運命が恐ろしくなり、仏法を学ぶためにマルパという高僧に弟子入りしたものの、このマルパはミラレパを弟子の輪に入れようとせず、無意味で苦しい仕事ばかりを強いるのでついに彼は絶望し自ら命を絶とうとするのだが、死に臨んだ瞬間、マルパに言われる。お前には過去の悪行によるカルマが憑いていていかに仏法といえどもお前を救うことはできなかったが、今、究極の絶望によりお前のカルマは消滅した、と。以来ミラレパは師の熱心な教えを受けて修行に励み、悟りを得て仏陀となった、というのが話の大筋だ。別に仏陀になりたいわけではなくても、窮地に陥ったり小さな絶望を味わったりすることで能力が飛躍的に伸びる経験は多くの人がしていることだろう。
だから苦労もしてみるものなのだが、そうは言っても普通の人間の心身はそう強いものではないから、これは本当にキツくて無理だと思ったら、自分のことを我が身よりも大事に思っている人がいることを思い出して、そいつを助けるつもりで休むなり逃げるなりしてほしい。
それで再び結婚式の話だが、私は成人してからは一度も出たことがなくて自分もやっていない。今回が初めてでそもそも比較の対象がないのだが、何となく、すごくいい式だったのではないかと思っている。縁あって一緒になったのだから新郎と末永く夫婦をやってほしい。亡くなった友人の席もちゃんと用意するような優しい男だからきっと娘のことを幸せにしてくれるだろう。
by satofukigarasu
| 2017-02-07 01:35