2017年 08月 23日
左藤時計の光と影 |
自分もあきれるほどの労力と知力を投入した「左藤時計」であるが、実は、ちょっと前に廃番の危機に見舞われていた。
それは、金属製のケースの表面処理を行っていた時のことで、このケースというのは、ピカピカのメタルが経年変化でちょっとくすんで曇った感じを、アイアン(鉄)へのエイジング加工で表現することにしていた。鉄というのはいくらピカピカに磨き上げてもいずれ必ず錆びるので、加工の後に何らかのクリアコートを塗布する必要があるが、クリア塗料というのはとても柔らかく剥げやすいので、少々お高いが人造ダイヤを含んだコーティング剤を吹き付けた。
ところが一、二ヶ月するとごく細かい赤錆が認められ、これは駄目だと思った。塗装面にミクロの孔があるということだ。
鉄が駄目だとするとあと考えられるのはアルミかステンレス。アルミは素人には接合が難しく、色味も希望と少し違う、ステンレスは難加工材であり、きれいに曲げるのがこれまた素人には難しい。何とかステンレスを加工できれば色も質感も希望通りなのだが。
ここで、ちょっと前に時計を見てくれた同じ千葉県の金属造形作家の方が、バーナーであぶって柔らかくしながら叩けばステンレスでもこういう加工は決して難しくない、と教えてくれたのを思い出した。
金属というものにはある程度の延性があるが、叩いて加工していく過程で素材がカチカチに固くなる「加工硬化」という現象があり、そうすると高温で加熱して硬化を元に戻す必要があるのだそうだ。つまり、あぶりながら叩けばなんとか形を変えてくれるということだ。
何となく元気が出て来て、実際やってみると、そう楽にはいかなかったが、以前試した時のような全く形になってくれないようなこともなく、自分としては結構きれいな形が出来たと満足したのだった。
その後グラインダーで槌あとを削るとさらにきれいになったので、これで危機は脱したなと胸をなでおろす感じだった。
そういうわけで今やっと去年の11月くらいの状態に戻って再製作中なので、もうちょっとで完成になると思う。
こんなあいまいな完成度で実はいくつかの注文をもらっていて家族もあきれているが、そうやって引くに引けない状態であるからこそ崖っぷちで頑張れるものと思う。
今だからそんなことが言えるが。
by satofukigarasu
| 2017-08-23 11:05